本 要約【物価とは何か】渡辺 努 #1382

3社会科学
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Q1: 「見えざる握手」はいつ、どう形成されたのか?


1995年ごろから企業と労働組合の間に「見えざる握手」と呼ばれる暗黙の合意ができたと思っています。これはバブル崩壊後の経済停滞の中で、企業が生き残るために賃金の上昇要求を抑え、価格も据え置くようになったことが背景にあります。たとえば、労組が賃上げを控えることで企業がコストを抑え、結果的にデフレ傾向が続いたのです。日本特有の「協調」的な企業文化がこれを支えたとも言えます。この合意があったからこそ、日本独自の長期デフレという形が現れたのではないかと思います。

Q2: 暗黙の合意が続いた制度的・心理的背景は?


企業が労組と密かに合意し、賃金を上げずに価格を据え置いた背景には、バブル崩壊後の厳しい経済状況と、企業が生き残るための合理的な判断があったと思います。たとえば、私が考えるに、成長期待が薄れた日本では、長期雇用を維持するためにも賃金を抑えざるを得なかった。その中で、労組も強く要求できず、「なんとなくの合意」が生まれた。この構造が続いた理由は、表には出ないけどそれが全体の利益とされたからで、ネットが普及しても価格の地域差が残るように、見えにくいところで合意が形成されたままだと思います。

Q3: なぜ情報格差で「一物一価」にならない?


情報格差が残る理由は、ネットが普及しても誰もが平等に使いこなせるわけじゃないからです。たとえばアメリカでは高齢者でも特売情報を駆使して安く買い物しますが、日本では高齢者がネット検索を苦手とするため、情報収集にコストがかかります。その結果、商品価格の地域間格差が生まれ、「一物一価」が成立しません。販売数量と価格の関係も、買う側の事情だと正の相関、売る側の事情だと負の相関になるというように、複雑です。こうした格差は社会全体の機会損失につながっていると感じています。

Q4: 情報格差による機会損失をどう埋める?


情報格差を埋めるには、国や企業がもっと積極的に取り組むべきだと考えます。日本では「価格を据え置くのが美徳」という風潮があり、消費者もそれに慣れています。そのため、情報がある人とない人で受ける恩恵が大きく違う。たとえば、私はキットカットの例が印象的で、日本では新商品が50種類以上も出て短命ですが、それも価格設定のタイミングを活かす戦略と見ています。こういった現象の背後には、情報を持つ側と持たない側の格差があり、それが機会損失に直結していると感じます。

Q5: なぜ日本では価格転嫁ができない?


日本ではたった1円の値上げでも消費者が敏感に反応し、他店に流れてしまうため、企業が価格転嫁をしにくいという現実があります。たとえば、他国では10%程度の値上げは普通に受け入れられるのに、日本ではそれが許されない空気があります。これは長年続いた価格据え置きの文化と、賃金が上がらない現実が組み合わさった結果だと思います。私たち消費者も将来の不安から少しでも節約しようとするし、それに応じて企業も価格を動かせない。こうして経済の停滞が続いてしまっていると感じています。

Q6: 初期価格設定が重要になった背景は?


企業が価格を後から上げることが消費者に許されないため、新商品の初期価格設定がすごく重要になっています。私が例に挙げたキットカットのように、日本では50種類以上の商品が短命で回転しているのは、この価格戦略の一環だと思います。企業は最初の価格で利益を確保しようとし、それが失敗すれば商品自体をすぐに終売して次の商品に移る。こうした文化は、日本の消費者が「価格据え置き」に敏感すぎることの裏返しで、それが新陳代謝の早さという別の問題を生んでいると感じます。

Q7: トーク98%、アクション2%の意味は?


アメリカの元FRB議長バーナンキが「金融政策はトークが98%、アクションが2%」と言ったように、人々の期待を操作することが政策の大部分を占めるんだと私も思います。たとえば、日本銀行が「金融緩和はしません」と言っておいて、実際には少しずつ緩和していくようなやり方は、消費者や投資家の期待に働きかける合理的な戦略です。こういうのは教師が「ここテストに出すよ」と言っておいて出さないのと似ていて、生徒の注意を引きつける効果がある。予想を動かすのが政策の本質になっていると感じます。

Q8: なぜ「言ってやらない」戦略が合理的?


「明日は値上げします」と言っておいて、実際にはしないというような戦略が合理的に見えるのは、コストや労力を最小限に抑えつつ、人々の行動を誘導できるからです。これは教師が「小テストをする」と言っておいて採点の手間から逃れるのと同じで、私たちはそれを無意識に理解しています。ギャンブルでも「たまに当たる」ことが次の投資につながるように、100%やるよりも「やるかもしれない」ほうが期待を引き出せる。これは心理と制度のバランスが作り出す、面白い戦略だと思います。

Q9: 確率的信頼が過剰になるリスクとは?


確率的な信頼に依存しすぎると、人々はやがてその仕組みを見抜いてしまい、政策や企業の発言が効かなくなるリスクがあります。私が思うに、「どうせやらないだろう」と見透かされると、トークの力は一気に失われます。たとえば金融政策でインフレ期待を操作しようとしても、人々が信じなくなれば、効果はゼロになる。これはゲーム理論的にも「繰り返しの裏切り」が信頼を壊すことを意味していて、私たちはその一線を見極めるのがすごく難しい状態にあると思います。

Q10: 信頼を保ちつつ期待を操作するには?


信頼を保ちながら期待を操作するには、「たまには実行する」ことがすごく重要だと考えます。たとえば教師が毎回「出すよ」と言って出さないと、生徒は聞かなくなりますが、時々本当にテストを実施すれば、また注意を向けるようになります。政策でも一度は本当に利上げする、企業でも一度は本当に値上げする、そういった“実行”が信頼の維持に必要です。私自身、言葉だけで動かすのがうまくいくのは、その背景に「やるかもしれない」という余白があるからだと思っています。

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